Japanische Klassiker mit Furigana
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じゅうきちひょうりゅうきぶん
重吉漂流紀聞
久生 十蘭
Lesen Sie 重吉漂流紀聞 (じゅうきちひょうりゅうきぶん) von 久生 十蘭 (ひさおじゅうらん) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 26.456 Zeichen · 52 Bildschirme
と胴ノ間に胡坐をかいて、精一杯に怒鳴りたてた。伊豆組は三郎助のぐるりにかたまり、重吉に白眼をくれながら、
「三郎助ぬしのいうとおり、こんな薄情な扱いをされては、情けなくて働かれない。端舟を捨てればよし、さもなければ言うことは聞かぬ」
とガヤガヤしだした。
重吉は横を向いて聞かないふりをしていたが、思いがけないあらしで気先が弱ったのか、海上の便宜をわきまえている水先頭や帆係までが、いっしょになって管を巻くようになった。こういう大時化のときは、さなきだに気を揃えて働かねば乗切れぬというのに、みなの心が離れ離れになっては、助かる船も助からないことになる。掛替えのない端舟だが、言うようにしてやるほかはなかろう。先のことは先のこと、なるようにしかならぬものだ、と思いきって端舟を捨てることにした。
伊豆方の水夫は苫の下から端舟を運びだし、
「要吉ぬし、端舟をやるから受取ってくれえよ」
諸声に法華経をとなえながら海に投げる。こういう時化では端舟などは木ッ端にもあたらない。いちど逆打ちをうっただけで飽気なく沈んでしまう。水夫どもはこれが大難のはじまりになるとも知らず、要吉が喜んで端舟を持って行ったなどと、口々に噺しているのはいかにも愚かな成行であった。