Japanische Klassiker mit Furigana
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やこ
野狐
田中 英光
Lesen Sie 野狐 (やこ) von 田中 英光 (たなかひでみつ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 19.615 Zeichen · 39 Bildschirme
滑稽なことに、私は桂子に対してまだ貞操を守っていたのである。
そして桂子も私に対して同様な気持でいると信じていた。二十貫もあった私の肉体はやせおとろえて、二貫目もやせ、アバラ骨さえ出る始末。そうした夜昼なしの放浪の間、私は浅草でも、新橋でも、横須賀でも、鎌倉でも、ところかまわず、酒と催眠剤を飲み歩いていたが、絶えず夢うつつのように桂子の幻が浮んでいた。きっと桂子も私と同じように不幸なのであろう。
それで、ある日、思いあまって、私は新宿のいわゆる愛の古巣に戻っていった。午後三時頃、台所から、こっそり声をかけ、上ってもいいか、桂坊がいままだ不幸な気持かと尋ねた。クスクスいう含み笑いと、「あたし、うれしいわ」という甘ったるい桂子の色っぽい声。「あたし勿論、不幸よ。帰ってきて下さって嬉しいわ」
こんな言葉に私は有頂天になって、懐しい六畳間に台所から入っていった。彼女はしきなれた布団の上に、なまめかしい寝巻姿で寝ており、その枕元に、私たちのいた頃から使っていた、近所の人のいい老婆が、優しく笑っていた。私はどこよりも、桂子の家で、家庭的なあたたかさをもって迎えられたのだ。