Japanische Klassiker mit Furigana
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きんろう
金狼
久生 十蘭
Lesen Sie 金狼 (きんろう) von 久生 十蘭 (ひさおじゅうらん) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 89.438 Zeichen · 179 Bildschirme
一日喰べる位の金はくれるだろう。……あとは、その都度なんとかすればいい……」
葵は眼を伏せた。
〈心配しなくともいいのです。あたしお金をもってる。夜が明けたら汽車に乗りましょう〉
そして、山へゆく、牛や巒気と交わりながら、憂いのない素朴な日をおくる。これが幸福でなくてなんだろう。じっとこうしていると、このまま大気のなかへとけてゆけそうな気がした。……二三度頭をゆり動かすと、やがて、ひくい寝息をたてはじめた。
久我は微笑しながらその顔をのぞきこんだ。こころがしみじみとして、たとえようもなく愉しかった。ここに自分を愛するためにだけ生きているものがいる。自分の肩に頭を凭らせ、静かな寝息をたてている。
久我は、はじめ葵を愛していなかった。東京での孤独な生活の娯楽として彼女を求めたのだった。そして、愛もなく結婚した。結婚するのに愛情なんか必要ではないと考えていたのである。しかし、いまは違う。長い間刻苦して鍛えあげた自我的な精神も自由もすてて甘んじて平凡な家庭のひとになり切ろうとしている。彼女のためならどんなことでもやってのけようと身構えている。これが愛情というものなのか。