Japanische Klassiker mit Furigana
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くぎぬきとうきちとりものおぼえがき
釘抜藤吉捕物覚書
林 不忘
Lesen Sie 釘抜藤吉捕物覚書 (くぎぬきとうきちとりものおぼえがき) von 林 不忘 (はやしふぼう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 19.251 Zeichen · 39 Bildschirme
うしろのほうの通路に近く、柱を背負ってすわっているのが釘抜藤吉だった。万筋の唐桟のふところへ両腕を引っ込めて、だらしなくはだけた襟元から出した手で顎を支えて眠ってでもいるのか、それとも、何かほかのことを考えているのかもしれない。固く眼をつぶってしきりに渋い顔を傾けているのである。
機嫌の悪い時は、苦虫を噛みつぶしたように、何日も口をきかないのが藤吉親分の癖だった。乾児の勘弁勘次や葬式彦兵衛は、その辺のこつをよく心得ていて、いつも藤吉の口が重くなると触らぬ神に崇りなしと傍へも寄らないように、そっとして置くのだった。そして、そういう場合、藤吉は必ず誰にも知らせずに、大きな事件を手がけているので、しじゅう何かひそかに考えごとをしているふうだった。勘次も彦兵衛も、長年の経験からそれを承知していて、いざ親分の思案がまとまって話があるまでは、何も訊かないことにしていた。
「彦、来い。寄席でも覗くべえ。」
ただこう言って、彦兵衛ひとりを伴に雨の中を、ぶらりと、八丁堀の合点長屋を出て来た釘抜藤吉だった。もちろん木戸御免である。親分の顔にあわてた男衆が、人を分けていい席へ案内しようとするのに、ここで結構と頤をしゃくって、さっさとその柱の根へ胡坐をかいたのだった。