Japanische Klassiker mit Furigana
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いんじゅう
陰獣
江戸川 乱歩
Lesen Sie 陰獣 (いんじゅう) von 江戸川 乱歩 (えどがわらんぽ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 66.968 Zeichen · 131 Bildschirme
それ程その女は私の心を惹いたのだ。彼女は青白い顔をしていたが、あんなに好もしい青白さを私は甞つて見たことがなかった。この世に若し人魚というものがあるならば、きっとあの女の様な優艷な肌を持っているに相違ない。どちらかと云えば昔風の瓜実顔で、眉も鼻も口も首筋も、肩も、悉くの線が優に弱々しく、なよなよとしていて、よく昔の小説家が形容した様な、触れば消えて行くかと思われる風情であった。私は今でも、あの時の彼女のまつげの長い、夢見る様なまなざしを忘れることは出来ない。
どちらが初め口を切ったのか、私は今妙に思い出せぬけれど、恐らくは私が何かのきっかけを作ったのであろう。彼女と私とはそこに並んでいた陳列品について二言三言口を利き合ったのが縁となって、それから博物館を一巡して、そこを出て上野の山内を山下へ通り抜けるまでの長い間、道づれとなってポッツリポッツリと、色々の事を話し合ったのである。
そうして話をして見ると、彼女の美しさは一段と風情を増して来るのであった。中にも彼女が笑う時の、恥らい勝ちな、弱々しい美しさには、私は何か古めかしい油絵の聖女の像でも見ている様な、又はあのモナリザの不思議な微笑を思い起す様な、一種異様の感じにうたれないではいられなかった。