Japanische Klassiker mit Furigana
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ちんじょうしょ
陳情書
西尾 正
Lesen Sie 陳情書 (ちんじょうしょ) von 西尾 正 (にしおただし) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 19.750 Zeichen · 38 Bildschirme
浮気な悪戯と思って居た私にとって、此の事は甚だ意外でありました。はっと息を呑んで其の儘注視して居りますと、先ず泣き歇んだ男が、鼻を鳴らし乍ら、泣くのよそう、ね、泣くのよそうよ、と妻の背を擦りつつ優しく劬わり始めたのであります。泣いたって仕様が無い、ね、一緒に死んだ方がいいよ、と妻の顔を覗き込んで呟きますと、妻は此の哀愁をどうなとしてくれと云った様な、いっそ自暴半分の乱調子で、いやいや、私は死なないわ、死なない、死なない、だって……だって一緒に逃げれば、死ななくても済むんですもの、と逆襲して行きました。男が其の儘返事に詰って黙って居りますと、私だって役者位やれます、ね、そうして、一緒にどっかへ、遠い所へ逃げて了いましょうよ、と重ねて泪混りに男を口説いて居る様子なのであります。そして二人が黙ると、次第に胸が苦しく成って来るものか再びさめざめと声を揃えて歔欷を始めるのでありました。そう言う言葉の抑揚が、泪を混えた其の雰囲気が、何か夢の中の悲哀の場面の如く感ぜられて、其の二人が悲しみの裡にも其の境遇を享楽して居ると云ったような、或る種の芝居がかった余裕が判乎と分るので、却って逆に私の方ははっと現実的に返ったのであります。