Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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しょうじのらくがき

障子の落書

寺田 寅彦

Lesen Sie 障子の落書 (しょうじのらくがき) von 寺田 寅彦 (てらだとらひこ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 3.170 Zeichen · 7 Bildschirme

Aozora Bunko

それで今朝汽車が出てしまって改札口へ引返すと同時に、なんだか気抜けがしたように、プラットフォームの踏心も軽く停車場を出ると空はよく晴れて快い日影を隠す雲もない。久し振りに天気のよい日曜である。宅へ帰ってどうすると云うあてもないので、銀座通りをぶらぶら歩き、大店のガラス窓の中を覗いてみたり雑誌屋の店先をあさってみたり、しばらくはほとんど何事も忘れていた。京橋から電車に乗ってこの片隅へ腰を下ろしてから始めて今朝の別れを思い起し、それからそれとこの間中の事を繰返してみる。薄情冷酷と云うではないが、苦い思いや鋭い悲しみも一日経てば一日だけの霞がかかる。今電車の窓から日曜の街の人通りをのどかに見下ろしている刻下の心持はただ自分が一通りの義務を果してしまった、この間中からの仕事が一段落をつげたと云うだけの単純な満足が心の底に動いているので、過去の憂苦も行末の心配も吉野紙を距てた絵ぐらいに思われて、ただ何となく寛ろいだ心持になっている。

すぐ向うの腰掛には会社員らしい中年の夫婦が十歳くらいの可愛い男の子を連れておおかた団子坂へでも行くのだろう。平一はこの会社員らしい男を何処かで見たように思ったがつい思い出せない、向うでも時々こちらの顔を見る。