Japanische Klassiker mit Furigana
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あごじゅうろうとりものちょう
顎十郎捕物帳
久生 十蘭
Lesen Sie 顎十郎捕物帳 (あごじゅうろうとりものちょう) von 久生 十蘭 (ひさおじゅうらん) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 11.527 Zeichen · 23 Bildschirme
「なんだと、ひとをこけにしやがって、いいかげんにとぼけておきやがれ。いってい、てめえなんざ、御府内へつんだす面じゃねえ。ねえ、旦那、気味が悪いじゃありませんか。あッしはね、こいつの面を見ると、きまってその晩、瓢箪の夢を見てうなされるんです」
藤波は薄い唇をほころばして白い歯を出し、
「まったく、珍な顎だの、いやな面だ」
顎十郎は、ゆっくり一足進みよると、眼を据えて、穴のあかんばかり、藤波の顔を瞠めていたが、唐突に口をひらいて、
「つまらぬことをいうようだが、藤波さん。……むかし、わたしが死ぬほど惚れた女がいましてね、その家の紋が二蓋亀という珍らしい紋どころだった。見れば、あなたのかたびらの紋も二蓋亀。……なんだか、ほのかな気持になりましてね、どうも、あなたを斬る気がしねえんだ。ゆるしてあげるとしよう」
顎十郎は袖を払うようにして、のっそりと今きたほうへ歩き出す。藤波は、千太とチラと眼を見あわせ、せせら笑いながら、
「なにを、たわけた。……さあ、帰えろう」
二人は反対のほうへ帰りかける。その途端、藤波の背中で、エイッという劈くような気合もろとも、チャリンという鍔鳴りの音。