Japanische Klassiker mit Furigana
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あごじゅうろうとりものちょう
顎十郎捕物帳
久生 十蘭
Lesen Sie 顎十郎捕物帳 (あごじゅうろうとりものちょう) von 久生 十蘭 (ひさおじゅうらん) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 14.028 Zeichen · 28 Bildschirme
甲斐守はなんとも言えぬ苦味のある微笑をうかべながら、ジロリと藤波の涙を眺め、
「聞くところによれば、数多い、江戸じゅうの陸尺、中間、馬丁などをことごとく身内にひきつけ、それらを手足のように自在に働かすそうな。多寡が番所の帳面繰だというに、ふしぎな男もあればあるもの」
藤波は、キッと顔をふりむけると、嘲るような語気で、
「むこうが中間、小者なら、こちらは、同心、加役。……定廻り、隠密、無足、諜者。……下ッ引まであわせると五百二十人。藤波は、死んでしまったわけじゃございません」
「ふむ。……では、明後日の朝までに、きっと事をわけるか」
「かならず、しおうせてごらんにいれます」
「もし、しそんじたら」
藤波は、驕慢な眼ざしで甲斐守の眼を見かえし、
「生きちゃアおりません」
霜の朝
寒い朝で、ようやく朝日がのぼったばかり。糀町の心法寺原に、いちめんに霜柱が立っている。
永田町よりの地ざかいに心法寺という寺があって、その塀のそばに、天鵞絨巻網代黒の供乗物が三つ、さんざんに打ちこわされてころがっている。簾はちぎれ、底板はぬけ、長棒は折れ、ほとんど形のないまでにこなごなになっている。