Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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さかなのじょぶん

魚の序文

林 芙美子

Lesen Sie 魚の序文 (さかなのじょぶん) von 林 芙美子 (はやしふみこ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 10.384 Zeichen · 21 Bildschirme

Aozora Bunko

「ううん……新墓へ行って盗って来ちゃったのよ。私、もったいないと思うたわよ。だって随分あるの、お金持ちのお墓なんて十円位も花束があがっててよ……」

「で、お土産に利用するのかい、仏も浮べないねえ……」

「だって美しい花だものほしいわ」

彼女は、その花束を如何にも花屋から買ったかのように紙に包んで、風呂敷をかかえ日向の道へ小犬のように出て行った。

僕は起きあがって窓ッぷちへ腰を掛けて墓の道を眺めた。墓を囲んだ杉や榎が燃えるような芽を出している。僕にはなぜか苦しすぎる風景であった。夜が待ち遠しい位だ。早く夜になってくれるといい。部屋の中に空箱のように風が沁みて行ったが、生きている喜びも何も感じられないほど、すべてが貧弱なもので、二畳と八畳きりの座敷の中には、この僕一人が道具らしい存在だ。歪んだ机の上には、訳しかけのプウシュキンの射的の草稿が黄いろくなったままだが、もうこんなものも売りに歩く自信もなくなりかけた。僕はふと誰かの話を憶い出した。バルザックのプチイ・ブルジョアを半年かけて訳して、六百枚あまりが百円にもならなかったと云う侘しさを。半年の情熱をかたむけて訳したその人の気持ちはこれまた侘しすぎる以上だろう。