Japanische Klassiker mit Furigana
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さかなのえさ
魚の餌
梅崎 春生
Lesen Sie 魚の餌 (さかなのえさ) von 梅崎 春生 (うめざきはるお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 4.827 Zeichen · 10 Bildschirme
「いらん」
とも一度兄が言った。ほとんど同時に弟が脣を曲げるようにして、
「いらないぞ」
とつけ加えた。兄の声は、前ほどつっけんどんではなく、やや弱々しくひびいた。そうか、としかし僕もすこしむっとした。しばらく視線を合わせていたが、僕は突き出した餌箱の恰好がつかず、そのままゴカイを放り出すようにして海面に捨てた。三人の視線は一度にその方に動いた。
赤くもつれ合ったゴカイは、ひとかたまりのまま緑色を帯びた海水に落ち、そこでやわらかくほぐれ、数条の赤い模様をつくり、美しく伸び縮みしながら、しずかに沈んで行った。沈んで見えなくなるのを見届けて、僕は子供に背を向けた。
海沿道を歩いて帰りながら、僕はしだいに心が重かった。そして僕はあの貧相な兄弟のことをやはりあれこれと考えていた。たとえばあの子供たちは、父が居ない、母親だけのうちじゃないのか。そして彼等が釣って来る魚が、重要な家計の足しになると言ったような。いつも餌を使い果たしているのも、充分に餌を買うだけの余裕のないやりくりではないのか。
しかしそれはことごとく、僕の感傷のジタバタだったんだろう。つまり現実の摩擦を避けるために、僕の打った手が、逆に僕を惨めにしたに過ぎなかったのだろう。