Japanische Klassiker mit Furigana
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なるとひちょう
鳴門秘帖(一)
吉川 英治
Lesen Sie 鳴門秘帖(一) (なるとひちょう) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 262.100 Zeichen · 523 Bildschirme
と、思い当った孫兵衛、ふたたび上げた顔の筋には、面も向けられない佞相の怒りが、蒼白く漲っている。
「うぬ、このお十夜を甘くみて、まんまと一杯くわせやがッたな。ウーム、どうするか見ていやがれ」
思わず、和蘭陀カルタをつかみつぶして、その方の疑念は忘れ、ただ一途に、この復讐をどうしてやろうかと思いつめる。
こういう場合に、肚の底では、焼酎火のような怒気をムラムラ燃やしながら、あくまで、ジイと眉間に針をよせて、かッとならないのが孫兵衛の性格である。――たとえば、京橋口で、斬るべき万吉を斬らずにフン縛ったり、ぬきや屋敷の椎の下で、そぼろ助広の切ッ尖でなぶってみたり、それはみな孫兵衛の粘りッこい悪の悦楽で、助広の刀をかまえる時も、女の肉をむさぼるにも、人に恨みを酬いるにも、かれのやり方はどこまでも暗く陰険である。
気分が癒った様子――。
孫兵衛は、黙然と立って、廊下仕切の障子をみなスーと閉めてしまう。
しばらく、なんにも音がない。とやがて、帯をしめる絹すべり、鏡台を摺る気配……容子はみえないが、頭巾をかぶりなおしているらしい。そういえば、お十夜孫兵衛、まだ今日まで、他人に頭巾をぬいだ顔を見せたことがない。