Japanische Klassiker mit Furigana
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なるとひちょう
鳴門秘帖(一)
吉川 英治
Lesen Sie 鳴門秘帖(一) (なるとひちょう) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 262.100 Zeichen · 523 Bildschirme
じっと月を眺めているが、お綱はしどろになって思い乱れた。乳のあたりで痛いほどの血の響きがする。ええ、どうしたんだろう私は! と口惜しさ悩ましさにじれてみても、喉まで出そうになる言葉が歯がゆくも心の奥へ掠れてしまう。
「こんないい折はありゃしない」と知りながら、みすみす恋に意気地のない自分を、お綱はどうにもしようがなかった。
男を男とも思わず、他人のふところの物さえ神技のように掏りとるお綱に、こんな女らしい悶えがある。
その女らしい苦しみを、お綱もこの頃初めて知った。よほど変則な生い立ちに今日まで紛れていたものが、悪土の中から芽を吹いたのだ。性格、本能、すべてがグングンと伸びきって悪の花を咲かせてしまった年頃まで、たッた一つ、純な芽生えを忘れ残されていたのは、まことの恋――それであった。
世間にすれていて男にすれず、男にすれていて恋にはすれていない――見返りお綱も、今度こそは、その恋の試練にかけられねばならぬ。
「いい按配だこと、明日もこの分で晴れてくれると嬉しいけれど……」
やっとの思いでお綱がいった。
いったけれど、それは弦之丞へ話しかけた訳ではない。