Japanische Klassiker mit Furigana
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なるとひちょう
鳴門秘帖(一)
吉川 英治
Lesen Sie 鳴門秘帖(一) (なるとひちょう) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 262.100 Zeichen · 523 Bildschirme
「時雨堂のあと始末や、半斎殿へご迷惑を及ぼしたお詫びなどは、いずれ立ち帰った上で御意をえるほどに、よしなにお伝え申しておいてくれ」
「ええ、ようございますとも」
「では、お頼み申すぞ」
この間うちから、常に寡黙で沈鬱にみえていた法月弦之丞は、その時、まるで人が違ったように、そういうや否や、血相すごく身仕度して、阿波侍の一行を追うべく宙を飛んで走りだした。
変事を知らせにきた半斎の家の者も、それと一緒に、これまた時雨堂の方へ、落ちつかぬ足どりを急がせて戻って行く。
こうして夜は一段と更け沈み、打出ヶ浜にはうねうねと白い波ばかりが、あとの寂寞とした大気の中にほしいままな舞躍の声をあげている。
お綱だけは、まだそこに立っていた。
しょんぼりと、瓦小屋の柱にもたれて――。
「……やっぱり縁がないのかねえ……」と、思わずもれる溜息がやるせない。
月影の中へ月より白く消えてゆく弦之丞の姿を、いつまでもいつまでもジイとそこからみつめているうちに、辺りの月光は茫と霞んで、松葉の露のような泪が、お綱の両の睫毛にいッぱいな玉を泛かべていた。
弦之丞には、行路の一顧にもすぎぬ女であったろうが、お綱の身にとってみれば、手のうちの珠を奪われたよりは、もっと絶望的な空虚が胸をひたすのであった。