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Japanische Klassiker mit Furigana

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なるとひちょう

鳴門秘帖(一)

吉川 英治

Lesen Sie 鳴門秘帖(一) (なるとひちょう) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 262.100 Zeichen · 523 Bildschirme

Aozora Bunko

お綱は、恋だなんて嫌味なことを、いいもしなければ思いもしない。

自分で自分の心にいった。

「わたしは、月夜の晩に風邪をひいたよ!」

世間にすれていて男にすれず――男にすれていて恋にはすれていない、これがお綱の実感だった。

月夜の風邪は重くなった。

あれからも二度三度、立慶河岸のお茶屋に上がって、一節切の主を待つ夜もあったが、とうとうそれきりその尺八もその影すらも見かけない……。京や伏見で七百両のやけ費いも、華やかだったには違いないが、月夜の晩にひいた風邪は、お綱の髄からぬけないのである。

「あ……うッかりして、妙なほうへ来てしまった……」お綱は目先を拭われたように、ふいと気がついて立ちどまった。

関の明神の高い石段は、さっき右手にみて左へ折れた薄おぼえがある。道はいつかダラダラ上りにかかっていて、緑の濃い竹林の中に、淙々としてゆく水の声がある。

「この辺じゃないかしら? ……こんな時に昨夜の一節切が聞こえてくればいいけれど」

と、二筋の道を見廻していると、やや上りになった檜林の暗い蔭に、一人の女が泣いている。檜にもたれて泣いている。

木の間を透く空も、どんよりと銀燻しのように鈍く、樅や松や雑草の、しめッぽい暗緑色につつまれた山蔭――。