Japanische Klassiker mit Furigana
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うすゆきしょう
うすゆき抄
久生 十蘭
Lesen Sie うすゆき抄 (うすゆきしょう) von 久生 十蘭 (ひさおじゅうらん) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 30.454 Zeichen · 59 Bildschirme
行子は預けられていた京都の黒谷の尼院から、大炊介は儒学の勉強をしていた下野の足利学校から、どちらも五年ぶりに故里へ帰り着いたその第一日目に、偶然、渡し舟に乗りあわすという運命的なめぐりあいをしている。
大炊介は二十二歳、行子は十七歳であった。大炊介は郷士の伜だが、いまは儒生のはしくれにすぎないから、もちろん供などは連れず、小狩衣に侍烏帽子をかぶったくらいのところ。行子のほうは小田原一の分限者といわれる蘆屋道益の一ノ姫だから、荷担ぎのほかに、倔強な供と女房ぐらいは連れ、縫箔のある小袖に精巧な地の薄衣をかぶった優美な旅姿をしていたことだったろう。そうして磧から舟に移ったが、広くもない渡し舟のことだから、肩をすりあわせ、ひょっとすると膝を触れあって、おなじ胴ノ間に坐ることになる。
行子の眼にうつった大炊介という男性は、蔓巻の打刀を指した士の風体なのに、どこにも髯がないことであった。鎌倉時代にはじまった貯髯の風は、天文の終りごろからいよいよ盛んになって、自持ちの髯のほかに置き髯や懸けひげをつけ、法体になっても豊かな髯をたくわえるという凝りかたなので、まずそのことが心をひいた。