Japanische Klassiker mit Furigana
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おせん
おせん
邦枝 完二
Lesen Sie おせん von 邦枝 完二 (くにえだかんじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 74.074 Zeichen · 148 Bildschirme
「太夫さん」
「太夫さんなぞと呼ばずに、やっぱり昔の通り、吉ちゃんと呼んでおくれな」
「そんなら、吉ちゃん。――」
「はい」
「あたしゃ、会いとうござんした」
「あたしも会いたかった。――こういったら、お前さんはさだめし、心にもないことをいうと、お想いだろうが、決して嘘でもなけりゃ、お世辞でもない。――知っての通り、あたしゃどうやら人気も出て、世間様からなんのかのと、いわれているけれど、心はやっぱり十年前もおなじこと。義理でもらった女房より、浮気でかこった女より、心から思うのはお前の身の上。暑いにつけ、寒いにつけ、切ない思いは、いつも谷中の空に通ってはいたが、今ではお前も人気娘、うっかりあたしが訪ねたら、あらぬ浮名を立てられて、さぞ迷惑でもあろうかと、きょうが日まで、辛抱して来ましたのさ」
「勿体ない、太夫さん。――」
「いいえ、勿体ないより、済まないのはあたしの心。役者家業の憂さ辛さは、どれ程いやだとおもっても、御贔屓からのお迎えよ。お座敷よといわれれば、三度に一度は出向いて行って、笑顔のひとつも見せねばならず、そのたび毎に、ああいやだ、こんな家業はきょうは止そうか、明日やめようかと思うものの、さて未練は舞台。