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Japanische Klassiker mit Furigana

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おせん

おせん

邦枝 完二

Lesen Sie おせん von 邦枝 完二 (くにえだかんじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 74.074 Zeichen · 148 Bildschirme

Aozora Bunko

ふと、とんぼの影が障子から離れた。と同時に藤吉の声が、遠慮勝ちに縁先から聞えた。

「師匠、太夫がおいでになりました」

「おおそうか。直ぐにこっちへお通ししな」

じっと畳の上を見詰めているおせんは、たじろぐように周囲を見廻した。

「お師匠さん、後生でござんす。あたしをこのまま、帰しておくんなさいまし」

「なんだって」

春信は大きく眼を見ひらいた。

七

たとえば青苔の上に、二つ三つこぼれた水引草の花にも似て、畳の上に裾を乱して立ちかけたおせんの、浮き彫のような爪先は、もはや固く畳を踏んではいなかった。

「ははは、おせん。みっともない、どうしたというんだ」

春信の、いささか当惑した視線は、そのまま障子の方へおせんを追って行ったが、やがて追い詰られたおせんの姿が、障子の際にうずくまるのを見ると、更に解せない思いが胸の底に拡がってあわてて障子の外にいる藤吉に声をかけた。

「藤吉、堺屋の太夫に、もうちっとの間、待っておもらい申してくれ」

「へえ」

おおかた、もはや縁先近くまで来ていたのであろう。藤吉が直ぐさま松江に春信の意を伝えて、池の方へ引き返してゆく気配が、障子に映った二つの影にそれと知れた。