Japanische Klassiker mit Furigana
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おせん
おせん
邦枝 完二
Lesen Sie おせん von 邦枝 完二 (くにえだかんじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 74.074 Zeichen · 148 Bildschirme
「坊主。坊主」
「へえ」
「おめえ、今朝面を洗ったか」
「へえ」
「嘘をつけ。面を洗った奴が、そんな粗相をするはずァなかろう。ここへ来て、よく人形の足を見ねえ。甲に、こんなに蝋が垂れているじゃねえか」
恐る恐る仕事場へ戻った。坊主の足はふるえていた。
「こいつァおめえの仕事だな」
「知りません」
「知らねえことがあるもんか。ゆうべ遅く仕事場へ蝋燭を持って這入って来たなァ、おめえより外にねえ筈だぜ。こいつァただの人形じゃねえ。菊之丞さんの魂までも彫り込もうという人形だ。粗相があっちゃァならねえと、あれ程いっておいたじゃねえか」
二
廂の深さがおいかぶさって、雨に煙った家の中は、蔵のように手許が暗く、まだ漸く石町の八つの鐘を聞いたばかりだというのに、あたりは行燈がほしいくらい、鼠色にぼけていた。
軒の樋はここ十年の間、一度も換えたことがないのであろう。竹の節々に青苔が盛り上って、その破れ目から落ちる雨水が砂時計の砂が目もりを落ちるのと同じに、絶え間なく耳を奪った。
への字に結んだ口に、煙管を銜えたまま、魅せられたように人形を凝視し続けている由斎は、何か大きく頷くと、今し方坊主がおこして来た炭火を、十能から火鉢にかけて、独りひそかに眉を寄せた。