Japanische Klassiker mit Furigana
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おせいとうじょう
お勢登場
江戸川 乱歩
Lesen Sie お勢登場 (おせいとうじょう) von 江戸川 乱歩 (えどがわらんぽ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 11.784 Zeichen · 24 Bildschirme
そればかりか、恐らく乾き切ってコチコチになっているであろう舌で、殆ど意味をなさぬ世迷言をつぶやく気勢さえ感じられた。それがおせいに対する恐しい呪いの言葉であることは、疑うまでもなかった。彼女は余りの恐しさに、危く決心を飜して長持を開こうかとまで思ったが、併し、そんなことをすれば、一層彼女の立場が取返しのつかぬものになることは分り切っていた。一たん殺意を悟られて了った今更、どうして彼を助けることが出来よう。
それにしても、長持の中の格太郎の心持はどの様であったろう。加害者の彼女すら、決心を飜そうかと迷った程である。併し彼女の想像などは、当人の世にも稀なる大苦悶に比して、千分一、万分一にも足らぬものであったに相違ない。一たんあきらめかけた所へ、思いがけぬ、仮令姦婦であるとはいえ、自分の女房が現れて、掛け金をはずしさえしたのである。その時の格太郎の大歓喜は、何に比べるものもなかったであろう。日頃恨んでいたおせいが、この上二重三重の不倫を犯したとしても、まだおつりが来る程有難く、かたじけなく思われたに相違ない。いかに病弱の身とはいえ、死の間際を味った者にとって、命はそれ程惜しいのだ。