Japanische Klassiker mit Furigana
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このにぎりめし
この握りめし
岸田 国士
Lesen Sie この握りめし (このにぎりめし) von 岸田 国士 (きしだくにお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 13.649 Zeichen · 27 Bildschirme
それどころか、昨夜、この宿に案内するまでは勿論、今朝、まだ早くから駐在へ顔を出して百万べんも頭をさげ、お蔭さまで命びろいをしましたと繰り返すその男に向つて、いや、君の命を救つたのは、この自分ではない、そうはつきり言うべきであつたと、彼は、あとから、後悔の念がむらむらと起つた。
若し岡本があの時握り飯を持つて駈けつけて来なかつたら、この旅の男は、或は、あのまゝ事切れていたかも知れぬ。それでも、警官としての自分の責任は、ともかく果したと言えば言えるのである。職務にも忠実だつた自分、偶然にもせよ一人の人命を救つた彼、この場合、職務に忠実であるとは、いつたい、なんだ。救い得る命を、わずかな気持の違いで、或は遂に亡びるに委せてかまわぬということか? 増田健次は、終日、苦悶し、自己嫌悪に陥り、岡本が彼に、なぜ警官などになつたかと詰問した意味がおぼろげにわかりかけた。
彼は、岡本弘に対して、一種の嫉妬を感じさえした。なぜ、彼には、あんなことが出来るのだ? なぜ、とつさに、あんなことを思いつき得るのだ? 実に、実に、いまいましい奴だ! 彼はその晩、悄然として、岡本の前に現われた。