Japanische Klassiker mit Furigana
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すみだがわ
すみだ川・新橋夜話 他一篇
永井 荷風
Lesen Sie すみだ川・新橋夜話 他一篇 (すみだがわ) von 永井 荷風 (ながいかふう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 44.378 Zeichen · 88 Bildschirme
池かと思うほど静止した堀割の水は河岸通に続く格子戸づくりの二階家から、正面に見える古風な忍返をつけた黒板塀の影までをはっきり映している。丁度汐時であろう。泊っている荷舟の苫屋根が往来よりも高く持上って、物を煮る青い煙が風のない空中へと真直に立昇っている。鯉口半纏に向鉢巻の女房が舷から子供のおかわを洗っている。橋の向角には「かしぶね」とした真白な新しい行燈と葭簀を片寄せた店先の障子が見え、石垣の下には舟板を一枚残らず綺麗に組み並べた釣舟が四、五艘浮いている。人通りは殆どない、もう四時過ぎたかも知れない。傾いた日輪をば眩しくもなく正面に見詰める事が出来る。この黄味の強い赤い夕陽の光に照りつけられて、見渡す人家、堀割、石垣、凡ての物の側面は、その角度を鋭く鮮明にしてはいたが、しかし日本の空気の是非なさは遠近を区別すべき些少の濃淡をもつけないので、堀割の眺望はさながら旧式の芝居の平い書割としか思われない。それが今、自分の眼にはかえって一層適切に、黙阿弥、小団次、菊五郎らの舞台をば、遺憾なく思い返させた。あの貸舟、格子戸づくり、忍返し……。
折もよく海鼠壁の芝居小屋を過ぎる。