Japanische Klassiker mit Furigana
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そのとし
その年
宮本 百合子
Lesen Sie その年 (そのとし) von 宮本 百合子 (みやもとゆりこ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 13.964 Zeichen · 28 Bildschirme
お茂登は思わず、
「へえ!」
と目を瞠って、わが家の背戸をふりかえった。あさりの貝殼が散っている小溝のふちに野茨が一株、小菊が三四株植って、せま苦しい扇形にひろがった右手に鶏小舎のあるその背戸。田圃とその先の松山とが今は静かに西日を受けているそこを、コンクリートの十二間道路が走るとは。
「東山をきりひらいて平らにする計画だそうだで、道路は丁度、うちより七尺ぐらい高いところを通るわけですな」
「ふーむ。そいで、どうで、こっちの道は」
とお茂登は自分たちが腰かけている店先の往来を顎でさした。
「こっちはこのままじゃ。人間や自転車の通るのはこっちで、裏は主にトラックだそうだで」
お茂登は、
「ふーむ」
とより云いようないのであった。
「いつ測量に来ただろう、知らざった」
すると、めくら縞の羽織を着たその男は、わがことのような心得顔で獅噛火鉢の煉炭火から煙草を吸いつけながら、
「そら知らん間にやるにきまっとる」
と、煙管をはたいた。
「松ケ浦の工事のときでも、買い上げ間際まで誰一人知っちゃおらざった。あっちはきょう日、千人の人夫だそうだでなあ」
小金を貸したり土地の仲買いを商売にしているその男は、胸算用の色を浮べて裏の松山の方へ漫然と目を注ぎながら呟いた。