Japanische Klassiker mit Furigana
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しゅんきんしょう
ちくま日本文学014 谷崎潤一郎
谷崎 潤一郎
Lesen Sie ちくま日本文学014 谷崎潤一郎 (しゅんきんしょう) von 谷崎 潤一郎 (たにざきじゅんいちろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 85.196 Zeichen · 169 Bildschirme
そんなことから、自分は信田の森へ行けば母に会えるような気がして、たしか尋常二三年の頃、そっと、家には内証で、同級生の友達を誘ってあそこまで出かけたことがあった。あの辺は今でも南海電車を降りて半里も歩かねばならぬ不便な場所で、その時分は途中まで汽車があったかどうか、何でも大部分ガタ馬車に乗って、よほど歩いたように思う。行ってみると、楠の大木の森の中に葛の葉稲荷の祠が建っていて、葛の葉姫の姿見の井戸と云うものがあった。自分は絵馬堂に掲げてある子別れの場の押絵の絵馬や、雀右衛門か誰かの似顔絵の額を眺めたりして、わずかに慰められて森を出たが、その帰り路に、ところどころの百姓家の障子の蔭から、今もとんからり、とんからりと機を織る音が洩れて来るのを、この上もなくなつかしく聞いた。多分あの沿道は河内木棉の産地だったので、機屋がたくさんあったのであろう。とにかくその昔はどれほど自分の憧れを充たしてくれたか知れなかった。
しかし自分が奇異に思うことは、そう云う風に常に恋い慕ったのは主として母の方であって、父に対してはさほどでもなかった一事である。そのくせ父は母より前に亡くなっていたから、母の姿は万一にも記憶に存する可能性があっても、父のは全くないはずであった。