Japanische Klassiker mit Furigana
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ひどいけむり
ひどい煙
久生 十蘭
Lesen Sie ひどい煙 (ひどいけむり) von 久生 十蘭 (ひさおじゅうらん) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 9.064 Zeichen · 18 Bildschirme
半十郎は砲身をひき起し、装薬にとりかかったが、気持の沈滞はいよいよ深まるばかり。そのうちに、手を動かすのも、もの憂いような放心状態になった。土壇のまわりが、急に黄昏れてきて、沼のほうから吹いてくる風が、ぞっと身に沁みた。
島原の乱のあと、大砲の張立てが皆無になり、久しく領収発射をしたことがなかった。たぶん、そのせいで、気持が乱れるのだろう。どれほどの時がたったのか、知らない。それは、じぶんで考えるほど、長い時間ではなかったのだろうが、その間、じぶんの眼がなにを見ていたのか、まったく記憶がない。しかし、手だけは機械的に動いていたのに相違ないので、ふと夢想から醒めると、なにひとつ手落ちなく装填の作業が終っていて、導火管に火をつければいいだけの状態になっていた。
重量のある実質弾を、火薬の力でふっ飛ばす瞬間の感覚は、いくど繰返しても、いつも新鮮である。半十郎が火繩の火を導火管の口火に移そうとしたとき、風のなかに、パーテル・ノステルの祈祷の声を聞いた。その一転瞬の間に、尾崎の断崖を背景にして、モヤモヤした砲煙の間から浮きあがってきた、清らかな、世にも美しい女人の顔をありありと見た。