Japanische Klassiker mit Furigana
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ドーヴィルものがたり
ドーヴィル物語
岡本 かの子
Lesen Sie ドーヴィル物語 (ドーヴィルものがたり) von 岡本 かの子 (おかもとかのこ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 21.723 Zeichen · 44 Bildschirme
彼女が斯うしてじっとして居る時は、物を眺めて居るのか、何か考えて居るのか小田島には判らない。だがまた斯うして居る時程この娘は美しく見える。イベットはもともと南欧ラテン民族の抜ける様な白い額から頬へかけうっすり素焼の赭土色を帯びた下ぶくれの瓜実顔を持つ女なのだが彼女が斯うした無心の態度に入る時には、何とも形容し難い「物」になって仕舞い、自然が与えた美しさだけが、外貌に残る。少し眼尻が下り、媚びて居るのか嘲って居るのか愁えて居るのか判らない大きな眼、丸味を帯びて小さい権威を揮って居る鼻、括れた余りが綻びかけて居る唇。これらがその形のままで空虚になるのだ。そしてこの娘のこの虚脱には何という人を逃さぬ魅力があることだろう。
――あなた、突然の電報で驚いた?
――別に驚きもし無いがね。だが一たい僕をこんな贅沢な処へ呼んで、どうしようって云うんだい。
彼女は「物」からただの女になりふふんと小狡く笑った。それから小海老を手握みで喰べて先が独活の芽のように円くしなう指先をナプキンで拭いた。
まともに押しても決して彼女が素直な返事をしないことを小田島は知り切って居た。