Japanische Klassiker mit Furigana
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レモンのはなのさくおかへ
レモンの花の咲く丘へ
国枝 史郎
Lesen Sie レモンの花の咲く丘へ (レモンのはなのさくおかへ) von 国枝 史郎 (くにえだしろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 71.016 Zeichen · 142 Bildschirme
――それを俺が連れて来たのだ。(間)あの日は、涙ぐんだ日が浜に散っている貝殻と、水に濡れた大きい岩と、そして女子の頬を伝う二筋の涙とを白く照らしていた。女子は忍び泣きに泣きながら、片手に赤い薔薇の花を持ち、それを高く振りかざし、地平線の辺へ消えて行く帆舟を見送っておったのだ。荒れ果てた海岸の淋しい淋しい午後だった。
従者 (領主に向かい合って椅子に腰をかけ)何故そんな女子をお連れなされました。
領主 (恋しそうに)以前の妻に似ていたからよ。
従者 (思わず立ち上がり)以前の妻! と申せば、あの若様のお母様の……。
領主 (昂奮して)そうだ、あの不貞の妻に似ていたからさ。
従者 御前様。
領主 不貞の妻だが恋しい女だ。あの女のことを思えば、身も心も消えて行きそうだ。(と思慕の情に耐えざる様子)
従者 御前様。
領主 (その当時を思い出し、声も瞳も力を増す)以前の妻と一緒に住んでいた頃は、俺もお前も若かった。
従者 (なつかしそうに)十年前でござりました。
領主 俺には昨日のように思われる。けれどもまた、この世ではなく、他界の消息のように思われる。ああ、思ったとて考えたとて、二度と再び、あんな幸福の日は送れないと思えば、あの頃の生活が、追いすがって引き止めたいようだ。