Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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ひとつのめばえ

一つの芽生

宮本 百合子

Lesen Sie 一つの芽生 (ひとつのめばえ) von 宮本 百合子 (みやもとゆりこ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 14.627 Zeichen · 29 Bildschirme

Aozora Bunko

「おかあさま、心配するのをお止めなさい」

と家じゅうの者が、あまり心を遣(つか)っている母を慰めた。

母は非常に、全く驚くほど心配していたけれども、ふだんいい体格なのだから、手当てがよくて病名さえきまれば、自分の愛情だけでも恢復させずには置かないぞ! という意気込みと自信とがあるらしかった。

そして、一週間ほど前に、「あぶないからおやめ」と注意したにも拘らず、彼が冷肉の添物のサラダをたくさん食べたという事実を知ったとき、彼女の心には或ることが閃いたらしかった。

「今度はなかなか戯談(じょうだん)ではすまないよ。熱の質が気にくわない」と、明かにチブスかも知れないという意味で、重々しく私に囁(ささや)きながらも、その顔にはちっとも当惑したり、失望したりした影は見えなかった。

かえって、子等のためには何事をも辞さない母親の、火のような愛と反抗的な決心が、あくまでも我子を庇護しようとして猛然と燃え上っているのばかりが気附かれるのを見て、私はほんとうに有難い、またいとおしい心持に撃たれたのである。

けれども、私の心は昨夜の状態から僅かの変化をも生じていなかった。