Japanische Klassiker mit Furigana
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せんきゅうひゃくさんじゅうにねんのはる
一九三二年の春
宮本 百合子
Lesen Sie 一九三二年の春 (せんきゅうひゃくさんじゅうにねんのはる) von 宮本 百合子 (みやもとゆりこ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 21.942 Zeichen · 44 Bildschirme
「――嘘つけ!」
「本当ですよ。見せましょうか。淋病なんですヨ」
看守はやや暫く経ってから、留置場の入口近く置いてある小テーブルの裏から鍵束をとり、ゆっくりと、さっきから頼んでいる保護室ではなく、わざと第二房の戸の方を先にあけた。
留置場の看守は二人一組。午前八時から翌日の午前八時迄二十四時間勤務で、一日交代であった。一時間留置場の内に看守すると、次の一時間は外へ出て休む。交代の時は二人の巡査が互に挙手の礼をし、
「二十九名。二人出ています」
という風に報告し合うのである。
同じ看守の日であった。第二房にいる岨という青年が薬を買って貰いたいと看守に要求した。
「すみませんがオリザニンを買わして下さい。ずっと飲んでいたのが切れて困ってるんですから」
その看守は監房の前に立ってチラリと留置場入口の戸についている覗き穴の方を振りかえり、それからこっちを向いてニヤニヤ笑いながら、
「うむ、よし。買ってやる」
といった。
「本当にお願いします。僕はこれからもう二十九日ぐらい蒸されるだろうし、未決へ行かなくちゃならないから脚気になると実際困るんです」
「だから、買ってやるっていってるじゃないか」