Japanische Klassiker mit Furigana
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ぼくのぼうしのおはなし
一房の葡萄 他四篇
有島 武郎
Lesen Sie 一房の葡萄 他四篇 (ぼくのぼうしのおはなし) von 有島 武郎 (ありしまたけお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 18.712 Zeichen · 39 Bildschirme
私の顔が見えると妹は後の方からあらん限りの声をしぼって
「兄さん来てよ……もう沈む……苦しい」
と呼びかけるのです。実際妹は鼻の所位まで水に沈みながら声を出そうとするのですから、その度ごとに水を呑むと見えて真蒼な苦しそうな顔をして私を睨みつけるように見えます。私も前に泳ぎながら心は後にばかり引かれました。幾度も妹のいる方へ泳いで行こうかと思いました。けれども私は悪い人間だったと見えて、こうなると自分の命が助かりたかったのです。妹の所へ行けば、二人とも一緒に沖に流されて命がないのは知れ切っていました。私はそれが恐ろしかったのです。何しろ早く岸について漁夫にでも助けに行ってもらう外はないと思いました。今から思うとそれはずるい考えだったようです。
でもとにかくそう思うと私はもう後も向かずに無我夢中で岸の方を向いて泳ぎ出しました。力が無くなりそうになると仰向に水の上に臥て暫らく気息をつきました。それでも岸は少しずつ近づいて来るようでした。一生懸命に……一生懸命に……、そして立泳ぎのようになって足を砂につけて見ようとしたら、またずぶりと頭まで潜ってしまいました。