Japanische Klassiker mit Furigana
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ひとにぎりのかみのけ
一握の髪の毛
田中 貢太郎
Lesen Sie 一握の髪の毛 (ひとにぎりのかみのけ) von 田中 貢太郎 (たなかこうたろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 6.548 Zeichen · 14 Bildschirme
章一は目黒駅へ往く時間が迫って来たので急いで著更えをしていた。婦人雑誌の訪問記者をしている章一は、丸ビルの四階にある編輯室へ毎日一回は必らず顔を出すことになっていて、それを実行しないと編輯長の機嫌の悪いことを知っていながら三日も往っていなかった。章一の幸福に満ちたたとえば風船玉のふわりふわりと飛んでいるような頭の一方の隅には、編輯長の怒りに対する恐れが黒い影となって泥んでいた。それに昨年あたりからヒステリーのようになっている細君のことも影を曳いていた。
「待っているのでしょ、彼奴が」
冷たい嘲を含んだ声が顫を帯びて聞えて来た。彼の女と目黒駅で待ちあわして蒲田線の沿線に在る旅館へ往くことになっている章一はぎくとしたが、しかし、家にばかりいる者がこんな秘密を知ろうはずがなかった。
「何云ってるのだ、痴、この忙がしいのに遊んでいられるか」
章一は袴の紐を結んでいた。章一は右斜に眼をやった。己が今髭を剃っていた鏡台の前に細君の額の出た黄ろな顔があった。
「幾等ごまかしたって、ちゃあんと判ってるわ、彼奴よ」
「彼奴って何だ、何云っているのだ、痴」
「どうせ痴ですよ、痴だからこんな目に逢わされるのですよ、でも、ちゃあんと判ってるわ、彼奴とかってな真似をしてるのを、知らないと思ってるの」