Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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ひとにぎりのかみのけ

一握の髪の毛

田中 貢太郎

Lesen Sie 一握の髪の毛 (ひとにぎりのかみのけ) von 田中 貢太郎 (たなかこうたろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 6.548 Zeichen · 14 Bildschirme

Aozora Bunko

彼はいきなり細君に迫って妊娠のために醜くなっているその黄ろな顔を撲りつけた。「ばか野郎」

痩せた小柄な細君の体は鏡台の方へ倒れかかった。その細君の右の手は章一が髭を剃った金盥の縁にあたった。金盥はひっくりかえって水がこぼれた。妊娠四箇月の細君の体はその金盥の上に横倒れになった。章一は怒りにまかせて足でまたその腰のあたりを蹶た。

「蹶たな、わたしを、親でも蹶やしない、わたしを蹶やがったな」

章一はその詞を聞くと一層怒りが燃えたった。

「け、けしからん、そんな、そんなぶれいな詞をつかうのか」

章一は力まかせに蹶た。細君の叫びとも獣の唸りとも判らないような声がそこに起るとともに、細君の体が起きあがって章一にぶっつかって来た。

「あぶない」

章一の眼の前に小さな白い物がちかちかと光った。それは細君の手にしている剃刀であった。細君の右の下唇には血があった。章一はいきなりその手を捩じあげてくるりと細君の体を前向にした。

「何するのだ」

章一はそこに暗い鬼魅悪いものを見たが、それよりも己に縋って己あるがために生きているように思われていた女が、僅なことにすぐ反抗して己に危害を加えようとする行為があさましくて憎くってたまらなかった。