Japanische Klassiker mit Furigana
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さんじゅうにこく
三十二刻
山本 周五郎
Lesen Sie 三十二刻 (さんじゅうにこく) von 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 15.273 Zeichen · 31 Bildschirme
どこか遠くで人の話し声が聞えた。まるで遙かな過去からの声のように、遠くて静かな調子だった……図書の感覚には、崩壊する築地塀の地響きや、決戦の雄叫びや、物具の撃合う鋭い音や、悲鳴や叫喚が生々と残っている。
体中がまだそれらの響音で揉返しているようだ。それなのに、いま彼の周囲はまるで嘘のように静かだった。
「御気分は如何でございますか」
宇女が顔を寄せながら訊いた……図書はこの謎を解こうとするように宇女の眼を見上げた。決戦はどうなったのか、山脇勢はどうした。味方の者は?……しかし彼にはそう訊くことはできない。
「……六郎右衛は、どうした」
「はい、ただ今お客間で、角舘様からの御上使を接待申上げております」
「……角舘様……?」
角舘には藩主修理太夫義隆の弟、佐竹義が一万石を以て分家している。そこから上使が来ていると聞けば、図書にもおよそ事情が分るように思えた。
「六郎右衛門を呼べ、御上使を受ける」
「御気分は大丈夫でござりますか」
「いいから呼べ」
宇女は立っていったが、すぐに戻ってきた。図書は起直ろうとしたけれど、身動きをしただけで劇痛がひどく、そのためほとんど全身が痺れるかと思われた……宇女は下座へ退って平伏した。