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Japanische Klassiker mit Furigana

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さんじゅっさい

三十歳

坂口 安吾

Lesen Sie 三十歳 (さんじゅっさい) von Sakaguchi Ango (坂口 安吾) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 16.211 Zeichen · 32 Bildschirme

Aozora Bunko

私は矢田津世子の横に腰を下して、たしかに、胸にだきしめたのだ。然し、その腕に私の力がいくらかでも籠っていたという覚えがない。

私は風をだきしめたような思いであった。私の全身から力が失われていたが、むしろ、磁石と鉄の作用の、その反対の作用が、からだを引き放して行くようであった。

私の惰性は、然し、つゞいた。そして、私は、接吻した。

矢田津世子の目は鉛の死んだ目であった。顔も、鉛の、死んだ顔であった。閉じられた口も、鉛の死んだ唇であった。

私が何事を行うにしても、もはや矢田津世子には、それに対して施すべき一切の意識も体力も失われていた。表情もなければ、身動きもなかった。すべてが死んでいたのであった。

私は茫然と矢田津世子から離れた。まったく、そのほかに名状すべからざる状態であったと思う。私は、たゞ、叫んでいた。

「出ましょう。外を歩きましょう」

そして、私は歩きだした。私について、矢田津世子も細い階段を下りてきた。

表通りへでると、私はたゞちに円タクをひろって、せかせかと矢田津世子に車をすゝめた。

「じゃア、さよなら」

矢田津世子は、かすかに笑顔をつくった。