Japanische Klassiker mit Furigana
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しゃんはい
上海
横光 利一
Lesen Sie 上海 (しゃんはい) von 横光 利一 (よこみつりいち) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 145.628 Zeichen · 292 Bildschirme
二九
二九
お杉は朝起きると、二階の欄干に肱をついて、下の裏通りののどかな賑わいをぼんやりと眺めていた。堀割の橋の上では、花のついた菜っ葉をさげた支那娘が、これもお杉のように、じっと橋の欄干から水の上を眺めていた。その娘の裾の傍でいつもの靴直しが、もう地べたに坐ったまま、靴の裏に歯をあてて食いつくように釘をぎゅうぎゅう抜いていた。その前を、脊中いっぱいに胡弓を脊負って売り歩く男や、朝帰りの水兵や、車に揺られて行く妊婦や、よちよち赤子のように歩く纏足の婦人などが往ったり来たりした。しかし、橋の下の水面では、橋の上を通る人々が逆さまに映って動いていくだけで、凹んだ鑵や、虫けらや、ぶくぶく浮き上る真黒なあぶくや、果実の皮などに取り巻かれたまま、蘇州からでも昨夜下って来たのであろう、割木を積んだ小舟が一艘、べったり泥水の上にへばりついて停っているだけであった。
お杉はその小舟の中で老婆がひとり縫物をしているのを見ると、急に日本にいた自分の母親のことを思い出した。お杉の母親は、まだお杉が幼い日のころ、彼女ひとりを残しておいて首を縊って死んだのだ。お杉はそれからの自分が、どうしてこの上海まで流れて来たか、今は彼女の記憶も朧げであった。