Japanische Klassiker mit Furigana
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しゃんはい
上海
横光 利一
Lesen Sie 上海 (しゃんはい) von 横光 利一 (よこみつりいち) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 145.628 Zeichen · 292 Bildschirme
彼女はトルコ風呂の入口から出て来ると、明日からもう再びここへ来ることが出来ぬのだと知り始めた。彼女は露地を出ると、鋪道に閉め出された黄包車の車輪の傍を通り、また露路の中へ這入っていった。露路の中には、霧にからまった円い柱が廻廊のように並んでいた。暗い中から、耳輪の脱れかかった老婆が咳きをしながら歩いて来た。お杉は柱の数を算えるように、泣いては停り、泣いては停った。彼女は露路を抜けると裏街を流れている泥溝に添ってまた歩いた。泥溝の水面には真黒な泡がぶくりぶくりと上っていた。その泥溝を包んだ漆喰の剥げかかった横腹で、青みどろが静に水面の油を舐めていた。
お杉は参木の下宿の下まで来ると、火の消えた二階の窓を仰いでみた。彼女はここまで、もう一度参木の顔をただ漫然と眺めに来たのである。それから――彼女はそれからのことは、ただ泣く以外には知らなかった。お杉は漆喰の欄干にもたれたまま片手で額を圧えていた。彼女の傍には、豚の骨や吐き出された砂糖黍の噛み粕の中から瓦斯燈が傾いて立っていた。彼女は多分その瓦斯燈の光りが消えて、参木の部屋の窓が開くまで動かぬだろう。彼女の見ている泥溝の上では、その間にも、泡の吹き出す黒い芥が徐々に寄り合いながら一つの島を築いていた。