Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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ふたつのてがみ

二つの手紙

芥川 竜之介

Lesen Sie 二つの手紙 (ふたつのてがみ) von Akutagawa Ryūnosuke (芥川 竜之介) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 11.799 Zeichen · 24 Bildschirme

Aozora Bunko

もし彼等が幻影でなかったなら、私はその一人たる妻からでも、当時の私の容子を話して貰う事が出来たでございましょう。しかし勿論それは不可能な事でございます。ただ、確かに覚えているのは、その時私がはげしい眩暈を感じたと云う事よりほかに、全く何もございません。私はそのまま、そこに倒れて、失神してしまったのでございます。その物音に驚いて、妻が茶の間から駈けつけて来た時には、あの呪うべき幻影ももう消えていたのでございましょう。妻は私をその書斎へ寝かして、早速氷嚢を額へのせてくれました。

私が正気にかえったのは、それから三十分ばかり後の事でございます。妻は、私が失神から醒めたのを見ると、突然声を立てて泣き出しました。この頃の私の言動が、どうも妻の腑に落ちないと申すのでございます。「何かあなたは疑っていらっしゃるのでしょう。そうでしょう。それなら、何故そうと打明けてくださらないのです。」妻はこう申して、私を責めました。世間が、妻の貞操を疑っていると云う事は、閣下も御承知の筈でございます。それはその時すでに、私の耳へはいって居りました。恐らくは妻もまた、誰からと云う事なく、この恐しい噂を聞いていたのでございましょう。