Japanische Klassiker mit Furigana
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いまどしんじゅう
今戸心中
広津 柳浪
Lesen Sie 今戸心中 (いまどしんじゅう) von 広津 柳浪 (ひろつりゅうろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 36.688 Zeichen · 74 Bildschirme
行燈はすでに消えて、窓の障子はほのぼのと明るくなッている。千住の製絨所か鐘が淵紡績会社かの汽笛がはるかに聞えて、上野の明け六時の鐘も撞ち始めた。
「善さん、しッかりなさいよ、お紙入れなんかお忘れなすッて」と、お熊が笑いながら出した紙入れを、善吉は苦笑いをしながら胸もあらわな寝衣の懐裡へ押し込んだ。
「ちッとお臥るがよござんすよ」
「もう夜が……明るくなッてるんだね」
「なにあなた、まだ六時ですよ。八時ごろまでお臥ッて、一口召し上ッて、それからお帰んなさるがよござんすよ」
「そう」と、善吉はなお突ッ立ッている。
「花魁、花魁」と、お熊は吉里へ声をかけたが、返辞もしなければ身動きもせぬ。
「しようがないね。善さん、早くお臥みなさいまし。八時になッたらお起し申しますよ」
善吉がもすこしいてもらいたかッたお熊は室を出て行ッた。
室の障子を開けるのが方々に聞え、梯子を上り下りする草履の音も多くなッた。馴染みの客を送り出して、その噂をしているのもあれば、初会の客に別れを惜しがッて、またの逢夜を約ッているのもある。夜はいよいよ明け放れた。
善吉は一層気が忙しくなッて、寝たくはあり、妙な心持はする、機会を失なッて、まじまじと吉里の寝姿を眺めていた。