Japanische Klassiker mit Furigana
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ひかりのないあさ
光のない朝
宮本 百合子
Lesen Sie 光のない朝 (ひかりのないあさ) von 宮本 百合子 (みやもとゆりこ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 5.418 Zeichen · 11 Bildschirme
暮のことで、表通りの方からは売出しに景気をつける楽隊の音が聞えて来る。おもんは、赧い髪の蓬々とほつれた小さい頭で、ぼんやり正月の楽さを想っていた。彼女にも、貧しいながら少女らしい正月のよろこびはあった。大晦日の晩、一枚桃色の襟巻を買って貰う約束が、母親との間に結ばれていたのである。
おもんは、いきなり自分を呼ぶ母親の鋭い声に驚かされた。
「おもん、お前沢田のおばさんの処を知っているだろう?」
性質の機敏でないおもんは、不意を打たれてぼんやり母の色艶のわるい顔を見上げた。
「ほら、この間も来た――お産婆さんだよ。赤い電燈のついた」
おもんは、あわてもせず、
「あそこなら知ってるわ」
と答えた。
「駈けてってね、直ぐ来て下さいって。直ぐだよ」
母親は、堪え難い苦痛を覚えるらしく、眉根を歪め、体を折り曲げて縁側から這い上った。
使を果して帰って見ると、母親は床に就いて、俄に怖ろしくなった眼を凝(じ)っと天井に見張りながら、時々低い唸り声を出している。産婆と入れ違いに台所へ逃げて来ても、おもんは、ウワウワと膝頭の震えるのを止めることが出来なかった。どんな可怖(こわ)いことが起ろうというのだろう。