Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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やつがたけのまじん

八ヶ嶽の魔神

国枝 史郎

Lesen Sie 八ヶ嶽の魔神 (やつがたけのまじん) von 国枝 史郎 (くにえだしろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 160.664 Zeichen · 323 Bildschirme

Aozora Bunko

そなた見掛けはしなかったかな?」

二一

老婆は返辞をしなかった。何やら音を立てて食っている。そうしてクスクス笑っているらしい。

「年寄りの分際で無礼な奴! これ返辞を何故しない」

右田運八は怒鳴りながら老婆の肩をムズと掴んだ。しかし老婆は返辞をしない。やはり俯向いて笑っている。そうして何か食っている。クックッと云うのは笑い声であり、ビチャビチャと云うのは物を食う音だ。

運八はいよいよ激昂し肩へ掛けた手へ力を入れた。と、その手がにわかに痲痺れ不意に老婆が顔を上げた。白金のような白髪を冠った朱盆のような赭い顔が暗夜の中に浮いて見えたが、口にも鼻にも頬顎にもベッタリ生血が附いている。両手でしっかり抱えているのは半分食いかけた生首である。切り口から血汐が滴っている。それは灘兵衛の首であった。

はっと思ったその瞬間運八はグラグラと眼が眩った。それから彼はバッタリ倒れ、そのまま気絶をしたのである。

数人の百姓に介抱され、彼が気絶から甦生った時には、その翌日の朝の陽が高く空に昇っていた。

この運八の失策は忽ち城下の評判となり武士と云わず町人と云わずすっかり怖気を揮ってしまい、日の暮れるのを合図にして人々は戸外へ出ようともしない。