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Japanische Klassiker mit Furigana

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やつがたけのまじん

八ヶ嶽の魔神

国枝 史郎

Lesen Sie 八ヶ嶽の魔神 (やつがたけのまじん) von 国枝 史郎 (くにえだしろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 160.664 Zeichen · 323 Bildschirme

Aozora Bunko

しかし今は早春であり部落は雪に包まれている。彼らにとっての享楽時代である。で、彼らは平素であったならもっともっと大騒ぎでもっともっと非難攻撃すべきこの重大の裏切り事件をも案外暢気に見過ごした。そういう他人の事件に関係り大事な時間を費やすより、自分自身快楽に耽り、いわゆる年中での遊び月を充分に遊んで暮らした方が幸福であると思ったからであろう。

とは云え、許婚の岩太郎と山吹の父の杉右衛門とは他人のようにそう簡単に見過ごすことは出来なかった。

まず岩太郎の心持ちから云えば、嫉妬、憤怒、そして悲哀。――この三つの感情が胸の中で取っ組み合い一時の平和さえ得られないのであった。

で、せめて身体を疲労らせ、それによって心の苦痛悲哀を痲痺させようと思い付いて、白皚々たる八ヶ嶽を上へ上へと登って行き、猪を見付ければ猪と闘い熊を見付ければ熊と争い、狐を殺し猿を生け捕りあらゆる冒険をやるのであった。

杉右衛門の心持ちも悲惨であった。彼は部落の長だけに深く責任を感じていた。そうして長となるだけあって宗介天狗を尊ぶ情と部落を愛する心持ちとは人一倍強かった。

「部落の長たる自分の娘が宗介天狗のお心持ちに背き下界の若者と契るさえ言語道断の曲事だのに、部落を捨ててどことも知れず姿を隠してしまうとは何んという不心得の女であろう」