Japanische Klassiker mit Furigana
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はつつぼみ
初蕾
山本 周五郎
Lesen Sie 初蕾 (はつつぼみ) von 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 17.525 Zeichen · 35 Bildschirme
しかしお民は、
「すぐ帰りますから」
と云い捨てたまま、なかば夢中でずんずん歩いていった。……どこへゆくとも知らず、どこをどう辿ったかもわからない、気がついたときは、日和山の梅林の中へ来ていた。子供を伴れて、よく海を見に来る処である。東南にひらいている斜面のかなたに梅と松との林を越して、鳥羽湾の碧い海と、美しい島々が眺められる、――ああいつもの場所だ、そう気づくのと同時に、もう小太郎とここへ来ることもできない、という悲しさがこみあげて、お民は思わず両手で面を掩いながら泣きだした。
「どうしてお泣きなさるの」
とつぜんうしろでそういう声がした。とびあがるほど驚ろいてふり返ると、はま女が小太郎を伴れて立っていた。
「……半之助が帰って来るのです、よろこんでもいい筈ではないか、あなたがお民どのだということも、小太郎が半之助の子だということも、わたしたちにはずっと以前からわかっていたのですよ」
「でも御隠居さま、わたくしは決して」
「仰しゃるな、喜右衛門どのから、あなたの気持はみんな聞いています。過ぎ去ったことは忘れましょう、半之助が帰って来ること、小太郎をなかに新しい月日の始まること、あなたはそれだけを考えていればいいのです」