Japanische Klassiker mit Furigana
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ひみつ
刺青・秘密
谷崎 潤一郎
Lesen Sie 刺青・秘密 (ひみつ) von 谷崎 潤一郎 (たにざきじゅんいちろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 32.935 Zeichen · 66 Bildschirme
ほの白い地面と、黒い松の樹とを長い間見馴れて来た私は、その時やっと、松の葉と云うものが緑色であったことを想い出した。その灯はとある電信柱の上に取り附けられたアーク燈であったのである。ちょうどその真下へ来た時に、私は暫く立ち止まって、影をくっきりと地面に映して居る自分の姿を眺め廻した。ほんとうに、松の葉の色をさえ忘れて居たくらいなのだから、若しもこの辺でアーク燈に出遇わなかったら、私は自分の姿までも忘れてしまったかも知れない。こうして光の中に這入って見ると、今通って来た松原も、これから行こうとする街道も、私の周囲五六間ばかりの圏の内を除いては、総べて真黒な闇の世界である。あんな暗い処を自分はよく通って来たものだと思われる。恐らくあの暗闇を歩いた折には自分は魂ばかりになって居たかも分らない。そうして、この明るみへ出ると共に肉体が魂の所へ戻って来たのかも分らない。
その時私はふっと、例のカサカサと云う皺嗄れた物の音が未だに右手の闇の中から聞えて居るのに心付いた。白いヒラヒラしたものが、アーク燈の光を受けて、先よりは余計まざまざと暗中に動いて居るようである。