Japanische Klassiker mit Furigana
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こくこく
刻々
宮本 百合子
Lesen Sie 刻々 (こくこく) von 宮本 百合子 (みやもとゆりこ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 36.401 Zeichen · 73 Bildschirme
自分は傍のテーブルで新聞をひろげた。
「いや……だが――困ったね」
主任は、例の酸っぱいような口つきをしながら、鼠色合服の上着の前を左右から掻きあわせつつ、
「どうです……何か変った様子でもなかったですか」
「その晩もごく平常のとおりでして、監視は怠らずにいたんですが、あれがフロからかえって二階へ上りましたもんで、私共もつい気を許して奥へ引込んだのですが……どうも――ほんの二分か三分の間に出てしまったものと見えます」
――自分には、そうやって五月蠅く親につきまとわれる娘さんの気分が手にとるように映った。あのぽっちゃりした受口に癇を立てて、ぷりぷりしながら沈んでいる姿まで思いやられるのであった。
傍で話をきいていて、すぐ死んでしまうとも思えない。さりとて、ストライキの時の確りした友達のところへ駈け込んで、もう二度と家へかえらず新しい生活へ入る決心したのだとも、思えない。いかにも、そういう性の娘さんであった。
父親は、会社へもねじ込んで行ったのだそうだ。
「同じ切るなら、若いもののことだ、せめて生きられるように切って貰いたかったと云いました。会社の方でも、それはすまなかったとは云っておりましたが……どうも――」