Japanische Klassiker mit Furigana
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ちくまがわのスケッチ
千曲川のスケッチ
島崎 藤村
Lesen Sie 千曲川のスケッチ (ちくまがわのスケッチ) von 島崎 藤村 (しまざきとうそん) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 81.668 Zeichen · 164 Bildschirme
「先生、虫じゃいけませんか」
「ええ、虫は鳥などのように酸素を欲しがりませんからナ」
問をかけた生徒は、つと教室を離れたかと思うと、やがて彼の姿が窓の外の桃の樹の側にあらわれた。
「アア、虫を取りに行った」
と窓の方を見る生徒もある。庭に出た青年は茂った桜の枝の蔭を尋ね廻っていたが、間もなく何か捕えて戻って来た。それを学士にすすめた。
「蜂ですか」と学士は気味悪そうに言った。
「ア、怒ってる――螫すぞ螫すぞ」
口々に言い騒いでいる生徒の前で、学士は身を反らして、螫されまいとする様子をした。その蜂をコップの中へ入れた時は、生徒等は意味もなく笑った。「死んだ、死んだ」と言うものもあれば、「弱い奴」というものもある。蜂は真理を証するかのように、コップの中でグルグル廻って、身を悶えて、死んだ。
「最早マイりましたかネ」
と学士も笑った。
その日は、校長はじめ、他の同僚も懐古園の方へ弓をひきに出掛けた。あの緑蔭には、同志の者が集って十五間ばかりの矢場を造ってある。私も学士に誘われて、学校から直に城址の方へ行くことにした。
はじめて私が学士に逢った時は、唯こんな田舎へ来て隠れている年をとった学者と思っただけで、そう親しく成ろうとは思わなかった。