Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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みなみさんのこいびと

南さんの恋人

豊島 与志雄

Lesen Sie 南さんの恋人 (みなみさんのこいびと) von 豊島 与志雄 (とよしまよしお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 17.630 Zeichen · 36 Bildschirme

Aozora Bunko

「どんな人が書いたものか、大体分ります。けれど、なんですか、その恋人というのは。」

案外落着いた調子だった。南さんはその声に耳を傾け、山根さんをまじまじと眺めた。それからまた眼をそらして、考えこんだ。そしてふいに云った。

「恋人か……なるほど、恋人、ですよ。人間でもないし、もちろん、神様でもないし、いや、やっぱり、恋人、です。そいつが、まだ、いないけれど、今に出てきます。奇蹟が、行われる……。」

山根さんは次第に蒼ざめて、頬の肉がぴくぴく震え、眼が大きくなっていった。

「誰のことですか、それは。」

「誰でも、ありません。」

低く呟いて、南さんはぐたりと横になってしまった。眼に一杯涙をためていた。それからふいに、卓袱台の上の紙片をひったくって、ずたずたに引裂いた。

「あんな奴に、分るもんか、畜生……、あなたにだって、分るもんか。やっぱり……僕には、恋人がいるんです。女でもない、男でもない、誰でもない……恋人だ。それが、いるんです。」

南さんの頬には涙が流れていた。山根さんはすっかり蒼ざめて、冷くなって、それでも、爪がつやつや光ってる手にハンカチをとって、南さんの涙を拭いてやった。