Japanische Klassiker mit Furigana
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はるかなたび
原民喜戦後全小説
原 民喜
Lesen Sie 原民喜戦後全小説 (はるかなたび) von 原 民喜 (はらたみき) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 60.577 Zeichen · 124 Bildschirme
手帳
きもの
手帳
枕頭においていた小さな手帳には遺言状をしたためていた。その手帳の第一頁に、
蓋もし衣にだにも捫らば愈んと意へばなりイエスふりかへり婦を見て曰けるは女よ心安かれ爾の信仰なんぢを愈せり即ち婦この時より愈
と鉛筆で書いてあり「昭和十九年三月二十九日午後八時四十分」とある。私は妻が入院中糖尿の食餌療法のために誌していた、もう一つの手帳で、三月二十九日はどんな日だったか調べてみた。すると、三度の食事を記入した欄外に「夜法話を聞き眠れなく気分悪し、ホテリ」とある。ホテリというのは頬が火照って苦しいことである。
「蓋もし衣にだにも……」という一節はマタイ伝の中に見つかった。が「十二年血漏を患へる婦うしろに来て其衣の裾に捫れり」という句に続くものであった。
十二年血漏を患へる婦――それを凝と睡れないで考え詰めていた顔が、私には何だか怕しい。三月二十九日午後八時四十分、その時から妻も心安らかであったのだろうか。
きもの
大学から大先生が来診して下さると決まると、妻は急いで新しい寝巻にとりかえた。鋭い麻の葉模様の浴衣であった。それを着たまま三日後には死んで行った。が、あの浴衣はたしか昨年、大学に入院した最初の日にも着ていたものであった。