Japanische Klassiker mit Furigana
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めいじんじごく
名人地獄
国枝 史郎
Lesen Sie 名人地獄 (めいじんじごく) von 国枝 史郎 (くにえだしろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 149.286 Zeichen · 301 Bildschirme
北山時雨で越後は雨か
この雨やまなきゃあわれない
続けて唄う追分が、長い尾をひいて消えた時、
「うまい」という声が聞こえて来た。で、ヒョイと振り返って見た。若い侍が立っていた。
「かこなかなか上手だな」至極早速な性質と見えて、その侍は話しかけた。
「どこでそれほど仕込んだな?」
「これはこれはお武家様、お褒めくだされ有難い仕合わせ」かこは剽軽に会釈したが、「自然に覚えましてございますよ」
「自然に覚えた? それは器用だな」こういいいい侍は、帆綱の上へ腰を掛けたが、「実はなわしにはその追分が、特になつかしく思われるのだよ」
「おやさようでございますか」
「というのは他でもない。その文句なりその節なり、それとそっくりの追分を、わしは信州の追分宿で聞いた」
するとかこは笑い出したが、「甚三の追分でございましょうが」
「これは不思議、どうして知っているな?」
「信州追分での歌い手なら、私の兄の甚三が、一番だからでございます」
「お前は甚三の弟かな?」
「弟の甚内でございます」
「そうであったか、奇遇だな」侍はちょっと懐かしそうに、「いや甚三の弟なら、追分節はうまい筈だ」
「ところがそうではなかったので、唄えるようになりましたのは、このごろのことでございます」