Japanische Klassiker mit Furigana
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めいじんじごく
名人地獄
国枝 史郎
Lesen Sie 名人地獄 (めいじんじごく) von 国枝 史郎 (くにえだしろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 149.286 Zeichen · 301 Bildschirme
なお女房は祈っていた。
ザワザワと竹叢の揺れる音。……
次第に夜が更けて行った。
「天下の金は俺の物だ。斬り取り強盗武士の習い。昔の俺はそうだった。……両国橋の橋詰めで、あいつに河へ追い込まれてからは、何彼につけて怖じ気がつき、やることなすこと食い違い……」
なお女房は祈っていた。
やがてそろそろと立ち上がると、おっとの側へ膝をついた。
そうして何かを聞き澄まそうとした。しかし何んにも聞こえない。
「ああ」と襟を掻き合わせたが、「まだ今夜は聞こえて来ない。どうぞ聞こえて来ないように」
チェッと浪人は舌打ちをした。
「毎晩きこえてたまるものか。なんの毎晩きこえるものか」
「毎晩きこえるではございませんか。ゆうべも、おとついも、その前の晩も。……」
「あれは……あれはな……空耳だ」
「なんの空耳でございましょう。あなたにも聞こえたではございませんか」
二人は顔をそむけ合った。
「……あれはな、亡魂の声ではない。……たしかに人間の声だった」
しかし女房は首を振った。
「あの人の声でございました。何んの妾が聞き違いましょう。……」
近くに古沼でもあるとみえて、ギャーッと五位鷺の啼く声がした。