Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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めいしょうまんげつ

名娼満月

夢野 久作

Lesen Sie 名娼満月 (めいしょうまんげつ) von 夢野 久作 (ゆめのきゅうさく) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 18.840 Zeichen · 37 Bildschirme

Aozora Bunko

なれど、その途中の路用が何として……」

「何の、やくたいもない心配じゃ。拙者にまだ聊かの蓄えもある。それが気詰まりと思わるるならば此方、三味線を引かっしゃれ。身共が小唄を歌おうほどに……」

「おお。それそれ。貴方様の小唄いうたら祇園、島原でも評判の名調子。私の三味線には過ぎましょうぞい」

「これこれ。煽立てやんな。落ちぶれたなら声も落ちつろう。ただ小謡よりも節が勝手で気楽じゃまで……」

「恐れ入りまする。それならば思い立ったが吉日とやら。只今から直ぐにでも……」

「おお。それよ。善は急げじゃ」

酒のまわり工合もあったであろう。さもなくとも色事にだけは日本一押の強い腰抜け侍に腑抜け町人。春の日永の淀川づたいを十何里が間。右に左にノラリクラリと、どんな文句を唄うて、どんな三味線をあしろうて行ったやら。揃いも揃うた昔に変る日焼面に鬚蓬々たる乞食姿で、哀れにもスゴスゴと、なつかしい京外れの木賃宿に着いたのが、ちょうど大文字山の中空に十四日月のほのめき初むる頃おいであった。明くれば宝暦二年の三月十五日。日本切っての名物。島原の花魁道中の前の日の事とて、洛中洛外が何とのう、大空に浮き上って行きそうな気はいが、二人の泊っている木賃宿のアンペラ敷の上までも漂うていた。